2025年10月1日水曜日

「久延彦 REPORT」(15)

 9月21日、台湾の国立政治大学(台北市)で「安倍晋三研究センター」の設立大会が開催されましたが、台湾の大学が内外の政治家の名を冠した研究機関を設置するのは初めてのことでした。また、この日は安倍晋三元首相の誕生日であり、あえてこの日を選んで「安倍晋三研究センター」が設立されたことに、台湾の人々の安倍元首相に対する並々ならぬ思いをうかがい知ることができます。

 この日の設立大会には頼清徳総統も出席し、あいさつの中で「安倍元首相の死去は日本の損失であるだけでなく台湾と全世界の損失だ」と述べました。また、安倍元首相の「台湾有事は日本有事」との発言や、「自由で開かれたインド太平洋」という外交戦略の意義について触れた上で、次のように語りました。

 「われわれが中国の軍事拡張に直面しながら今日も平和を享受できているのは、(中国を抑止する枠組みを構築した)安倍元首相の大局観のお陰だ。」

 頼清徳総統は、台湾が今日まで砲火を見ることなく静かな平和を享受できているのは、安倍元首相の先見の明による、とはっきり語っているのです。台湾を重視し、日台関係の強化に尽力した安倍元首相は、台湾人にとって忘れることのできない功績を残しましたが、その一つが「台湾有事は日本有事」という発言でした。それは日本と台湾の安全保障上の強い絆を象徴する言葉であり、多くの台湾人の心に強い印象を与えることになったのです。

 台湾・政治大学「安倍晋三研究センター」の初代主任に就任する李世暉(りせいき)教授は、その設立理由について「現代の日本を理解するには安倍元首相の戦略を研究する必要がある。台日の共通利益がどこにあるのかを提示したい」と述べ、さらに、「今後、日本国内で安倍氏を再評価する時期が来るだろう。その時には、われわれのいろんな研究成果を参考材料にしてもらいたい」とも語っています。

 台湾・高雄市の紅毛港保安堂(こうもうこうほあんどう)の敷地内には安倍元首相の銅像が建立されています。安倍元首相が亡くなった翌日には保安堂に追悼会場が設置され、その後、 有志の寄付により安倍元首相の銅像製作が始められました。 そして、2022年9月24日に除幕式が行われ、等身大の銅像の台座には「台湾永遠的朋友」(台湾の永遠の友人)という言葉が刻まれました。また、建てられた銅像が一日中日光に当たっているのは可哀想ということで、日を遮るために立派な松の木を植えることになったのですが、そのための寄付金もすぐに集まったそうです。多くの台湾人が安倍元首相に対して深い敬愛の心を抱いていたからです。

 日本では安倍元首相が暗殺されて後、国内政治は混乱し、国際社会における日本の地位は低下するばかりです。そして、今や自民党政権は衆参両院において過半数を維持できなくなり、国民の支持を得ることがますます困難になっています。「解党的出直し」などという陳腐なスローガンでは、自民党の将来に希望はないでしょう。

 しかし、ここで自民党が再生し、もう一度日本の将来に対して夢と希望を取り戻すことができる道があるとすれば、それは安倍元首相の功績を思い起こし、安倍元首相が取り組んできた国家戦略に立ち返ることです。自民党が国民にそっぽを向かれるようになった最大の要因は安倍元首相の政治路線を放棄し、安倍元首相の国家戦略をないがしろにしてきたことにあるからです。まさに安倍路線の継承こそが、自民党再生の唯一の道であり、日本を復活させるための最良の道なのです。

 日本の政治家が盲目となって、安倍元首相の功績を忘れてしまっていることは、実に嘆かわしいことですが、そうであるならば、日本は台湾にこそ見習うべきであり、さらにはトランプ大統領の世界戦略にこそ歩調を合わせるべきなのです。「台湾の永遠の友人」とされた安倍元首相を、日本もまた「永遠の友人」として心に迎えなければなりません。また、「晋三は私が何を言っているのかすぐに理解した。(晋三は)素晴らしい人物だった。紳士だった」と賛辞を贈ったトランプ大統領と心を一つにしなければならないのです。日本が米国と台湾と共に歩むこと、ここにアジアの平和と世界の平和がかかっている、と言ったとしても決して過言ではないでしょう。