10月21日、日本初の女性首相が誕生しました。高市早苗首相は自民党総裁に選出された際、所属議員に向けたあいさつで、次のように語りかけました。
「全員に馬車馬のように働いてもらう。私自身もワークライフバランスという言葉を捨てます。働いて、働いて、働いて、働いて、働いてまいります。」
国家国民のために粉骨砕身して働く、所属議員の一人ひとりに対しても国家国民のために一生懸命に働いていただく。まったくもって当然至極(しごく)の発言ではないかと思うのですが、この発言に噛みつき、高市首相を批判する大手メディアには唖然としてしまいます。そして、このメディアの高市批判に迎合するかのように、過労死弁護団全国連絡会議と全国過労死を考える家族の会が、それぞれに次のような声明を発しています。
「公務員など働く人々の過重労働・長時間労働を強要することにつながる。・・・極めて重大な言動。政府が推し進めてきた健康的な職場づくりを否定し、古くからの精神主義を復活させるものだ。」(過労死弁護団全国連絡会議)
「リスクの高い働き方、命が奪われる働き方に傾くことが心配でなりません。・・・私たちは、大切な家族が馬車馬のように働かされて過労死したのです。・・・国のトップに立とうとする人の発言とは思えない。」(全国過労死を考える家族の会)
日本共産党の志位和夫議長は「『全員馬車馬のように働いてもらう』にものけぞった。人間は馬ではない。公党の党首が使ってよい言葉とは思えない」と投稿したそうですが、もはや揚げ足取りにもなっていない、単なる言いがかりであり、一種のいじめではないでしょうか。この記事を見た人たちからは「それなら、選挙には出馬しないでください」と揶揄(やゆ)され、この人には何を言っても「馬の耳に念仏ですね」と嘲笑(ちょうしょう)されているのですから、それこそ公党の議長として恥ずかしくないのでしょうか。
政治家が国家国民のために馬車馬のように働き、寝る間も惜しんで政務に邁進する、これは政治家としての矜持(きょうじ)ではないかと思います。しかし、どれほどの政治家が身を粉にして、馬車馬のように国家国民のために働いてくれているでしょうか。物価高にあえぐ国民の声に耳をそばだて、国民生活を少しでも良くするために休日を返上してまで働いてくれる政治家がいますか。
高市首相の発言について「古くからの精神主義を復活させるもの」と非難し、「国のトップに立とうとする人の発言とは思えない」と批判する人たちに対して、是非とも知っていただきたい一つの逸話があるので、ご紹介したいと思います。
それは、古市公威(ふるいちこうい・1854-1934)という人にまつわるエピソードです。古市は姫路藩士の長男として生まれ、のちに文部省最初の留学生としてフランスに留学し、欧州の進んだ土木工学を習得し帰国します。その後、内務省の技師として河川改修や築港などに関わりました。また、1886年には32歳の若さで帝国大学工科大学(東京大学工学部の前身)初代学長に就任します。日本初の工学博士でもあり、日本の近代土木技術の確立に大きな足跡を残したのです。古市はフランス留学中、寝食を惜しんで勉学に励みました。ある日、古市の猛勉強ぶりを見ていた下宿先の女主人が、体を壊すのではないかと心配し、休養を取るようにと勧めました。その時、古市は次のように答えたといいます。
「自分が一日休むと、日本が一日遅れます。」
古市公威は日本近代の工学教育の礎を築き、技術者としても初代内務土木技監、初代土木学会長などの要職を務め、新生明治日本の近代化に欠くことのできない役割を果たしました。東京大学の本郷キャンパス内(工学部11号館横)には、古市の長年の業績を讃えて製作された銅像が建立されています。国難にある今日の日本を古市公威はどのような思いで見つめているでしょうか。
国家国民のために一日を惜しんで勉学に勤しんだ古市公威のような人物によって日本の近代化が成し遂げられたことを私たちは忘れてはなりません。「自分が休むと、日本が一日遅れます」という言葉は、高市首相が語った「働いて、働いて、働いて、働いて、働いてまいります」という言葉に通じるものがあるのではないでしょうか。これこそ、国のトップに立とうとする人の発言でなければならないのです。