2025年8月4日月曜日

「久延彦 REPORT」(8)

 日米の関税交渉についてですが、私たち日本人が忘れていることがあるように思えて仕方ありません。はっきり言いますが、もし安倍晋三元首相が御存命であり、さらに今頃、第三次安倍晋三政権が誕生していたならば、トランプ大統領との関税交渉は、とっくに解決していたであろうということです。そして、関税率も15%どころではなく、もっと低率で最終合意していたに違いないということです。

 2019年の日米貿易交渉の結末を知っている人であるならば、今のような石破政権下における日米間の懸案など何ひとつ存在しなかったことが理解できるはずです。安倍首相とトランプ大統領によって日米関係は今なお蜜月であり、日米両国のみならず、世界中の国々にとってどれほど希望的な時代を迎えていたことでしょうか。

 石破首相は大事な点を見落としています。そして、その大事な点を教えようとしても、聞く耳を持ちません。なぜなら、それらすべては安倍元首相が遺された功績であるからです。安倍元首相がどのようにしてトランプ大統領との関係を構築し、日本国の国益を最大限に拡大していくために心を通わせ合うことができたのか、その成功体験に学ぶことを、石破首相は一切拒否しているのです。これで日本国の国益、さらには日本国民の生命と財産を守ることができるでしょうか。

 日本人が何よりも忘れてはならないことがあります。それは、日本国にとっての唯一の同盟国が米国であるという事実です。2025年時点で国連加盟国は193ヵ国ありますが、その中で日本の同盟国は米国だけです。そして、準同盟国とされているのが、イギリス・フランス・カナダ・オーストラリア・インドの5ヵ国なのです。つまり、日本の外交関係において、米国が最重要国家であることは自明であり、さらには準同盟国との関係が何よりも大切な外交関係であることを覚えておかなければならないのです。

 それに対して、日本国にとっての敵対国とはどこなのでしょうか。同盟国の対極にあるのが敵対国なのですが、それは明らかに中国であり、北朝鮮なのです。特に、日本にとって最も危険な敵対国は中国(中国共産党)であることは誰の目にも明らかなはずです。ところが、中国が日本に対して行う蛮行に対しては何一つまともな抗議すらできない石破政権が、日本の唯一の同盟国である米国に対して、「なめられてたまるか」と啖呵(たんか)を切るのですから、困ったものです。安倍元首相であれば、同盟国である米国にこのような無礼なことをするはずがなく、このような不遜な言葉を語るはずもありません。

 何から何まで石破首相は安倍元首相がしたことと真逆のことをやり続けているのです。だから、トランプ大統領からは名前も覚えてもらえず、電話会談もろくにできず、関税交渉の場から逃げるばかりで、部下の赤沢大臣に丸投げしている。これが国難でなくて何でしょうか。石破首相が本当に日本の国益を第一に考えるならば、すべきことはただ一つです。それは、安倍晋三元首相が身を削って国益のために何をされたのかを謙虚に学び、その功績に対して真摯に向き合うことです。

 トランプ大統領はかつての日米の貿易交渉について振り返りながら、当時の安倍晋三首相に対して、「安倍首相は私が何を言っているのかすぐに理解し、『分かっている』と答えた」と語り、安倍首相が日米貿易の現状を理解するだけでなく、トランプ大統領の真意を完全に理解していたことを回想しているのです。そして、トランプ大統領が安倍首相について「素晴らしい人物だった。紳士だった」などと語ったことの真意がどこにあるのか、石破首相が悟ることができるように仕向けていたのです。

 しかし、このようなトランプ大統領の配慮も心遣いも全く理解できなかった石破首相にとっては、トランプ大統領が政敵である安倍元首相に賛辞を送り、安倍元首相との素晴らしい思い出話をすることは、不快なことでしかなかったのでしょう。その意味でも、石破首相はこう思ったのです。「なめられてたまるか」。日本にとって唯一の同盟国である米国との関係が険悪になることほど、国家の危機はなく、それこそが現代の国難であることに気づいてほしいと願いますが、きっとこのような切なる願いに対しても、「なめられてたまるか」という答えが返ってきそうです。